吉田肉腫細胞が重要科学技術史資料に登録
‐抗癌剤開発などの癌研究への寄与を評価-
【発表のポイント】
● 加齢医学研究所医用細胞資源センター細胞バンクが長年、保有、分譲している吉田肉腫細胞が、我が国の科学技術の発展を示す上で貴重な資料として、「国立科学博物館重要科学技術史資料」*1として選定、登録されました。
● 吉田肉腫細胞は、癌を細胞レベルで研究することを可能とし、抗癌薬の創製に使用されるなど、癌に対する化学療法の発展に大きな影響を与えたことが評価されました。
【概要】
加齢医学研究所医用細胞資源センター細胞バンクでは、ヒト癌細胞株などの研究に有用なさまざまな細胞株を、研究者に分譲する事業を行っています。今回、当センターが分譲中の吉田肉腫細胞が、我が国の科学技術の発展を示す上で貴重な資料として、「国立科学博物館重要科学技術史資料」として登録されました。
吉田肉腫は、腹水*2に浮遊状態で維持できる肉腫細胞*3です。吉田富三博士は、1932(昭和7)年に東京帝国大学医学部にて世界で初めて化学物質の経口投与によりラットの肝臓に癌が発生することを発見しました。さらに研究を続け、長崎医科大学にて1943(昭和18)年にラットの腹水中に浮遊する癌細胞株「吉田肉腫」を作りだし、別のラットの腹腔に注入することで、移植できることも発見しました。そして吉田博士は、1944年(昭和44年)に、東北帝国大学教授に就任しました。この吉田肉腫細胞を用いることで、癌を細胞レベルで研究することが可能になり、1952(昭和27)年に、我が国初めての抗癌薬ナイトロジェンマスタードN-オキシド(商品名:ナイトロミン)の創製に使用されるなど、癌に対する化学療法の発展に大きな影響を与えたことが評価され、今回の登録に至りました。
【用語説明】
*1 国立科学博物館重要科学技術史資料
重要科学技術史資料は、「科学技術の発達上重要な成果を示し、次世代に継承していく上で重要な意義を持つもの」や「国民生活、経済、社会、文化の在り方に顕著な影響を与えたもの」に該当する資料を、技術の歴史を未来に役立てる情報と研究の拠点を目指し活動している、独立行政法人国立科学博物館が選定、登録しています。
*2 腹水
腹腔内に存在する液体で、通常も少量ありますが、マウスやラットなどの実験動物の腹腔に、ある種の癌細胞を移植すると、増加した腹水内で癌細胞が増殖することが知られています。
*3 肉腫細胞
癌細胞の一種で、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管などの結合組織細胞に由来する癌細胞です。
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学加齢医学研究所
教授 松居靖久(まついやすひさ)
電話番号:022-717-8571、022-717-8572
E-mail:yasuhisa.matsui.d3*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)