遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因になる BRCA1 の 結合分子 RACK1 の新たな発がん機能を解明
正常な細胞分裂に必要な中心体複製での新たな役割を明らかに

【発表のポイント】
● 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因になる BRCA1 の結合分子 RACK1 の 中心体複製 注1)における新たな役割を明らかにしました。
● RACK1は、細胞分裂に重要な役割を果たすPLK1 注2)とAurora A 注3)との 相互作用の「足場」として働き、Aurora AによるPLK1の活性化を促進する ことが明らかになりました。
● RACK1 は、細胞分裂のS期にPLK1の活性化を促進し、中心小体複製に 寄与することが明らかになりました。

【概要】
がん遺伝子として知られる BRCA1 は、その生殖細胞系列変異によって遺伝 性乳がん・卵巣がん症候群を引き起こします。東北大学加齢医学研究所 腫瘍生 物学分野の千葉 奈津子(ちば なつこ)教授、吉野 優樹(よしの ゆうき)助教、 小林 輝大(こばやし あきひろ)医学系研究科 大学院生(現 杉山医院)らの研 究グループは、その遺伝子産物 BRCA1 と結合する RACK1(Receptor for activated C kinase 1)が、Aurora A とpolo-like kinase 1 (PLK1)との相互作用 の「足場」として働き、S期にPLK1を活性化することで、細胞分裂時の染色体 分配に働く中心体の複製に寄与することを明らかにしました。また、がんで見ら れるRACK1の変異は、足場としての機能に異常をきたし、この機能の異常が発 がんに関与する可能性を示しました。

本研究成果は2020年 9月1日、Journal of Cell Science誌においてオンライ ンで掲載されました。 本研究は、文部科学省科学研究費補助金、がん研究振興財団 がん研究助成金、 日本科学協会 笹川科学研究助成、公益財団法人日本白血病研究基金研究助成事 業、公益財団法人高松宮妃癌研究基金の支援を受けて行われました。

【用語説明】

注1)中心体複製:細胞分裂の後、娘細胞は2個の中心小体を含む中心体を1個受 け継ぐ。S期にそれぞれの中心小体から新たな娘中心小体が複製され、G2期に は L 字型に結合した母・娘中心小体を含む中心体が 2個存在する。M 期(細胞 分裂期)にそれぞれの中心体から微小管が伸長し、紡錘体を形成して染色体の分 配に関与する。M 期の後半からG1期にかけて、母・娘中心小体間の結合が解消 され、次の細胞周期での中心小体の複製が可能になる。この現象は中心小体解離 と呼ばれ、PLK1の活性によって制御される。
注2)PLK1:分裂期キナーゼの1つで、中心体、紡錘体極などに局在し、細胞分 裂に進行に重要な役割を果たす。中心体では、中心小体の複製に重要な中心小体 解離を引き起こす。
注3)Aurora A:分裂期キナーゼの1つで、中心体、紡錘体極に局在し、細胞分裂 に進行に重要な役割を果たす。PLK1をリン酸化して活性化する。
注4)中心体:核の近くの細胞質に存在する細胞内小器官であり、中心小体と、そ の周囲の中心小体周辺物質(pericentriolar material; PCM)からなる。中心小 体は母中心小体と、その側壁に結合する娘中心小体からなり、L字型の構造をと る。中心小体周辺物質には-チュブリン環が豊富に存在し、細胞骨格の一つであ る微小管の形成起点として働く。細胞分裂期には中心体から微小管が伸長し、紡 錘体を形成する。
注5)紡錘体:細胞分裂の際に、染色体を娘細胞に均等に分配する機能をもつ。
注6)中心小体:中心体の内部に存在し、中心体の複製や機能を制御する。

詳細(プレスリリース本文)

【問い合わせ先】
東北大学加齢医学研究所
教授 千葉 奈津子 (ちば なつこ)
電話 022-717-8477
E-mail: natsuko.chiba.c7*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)