【発表のポイント】
⚫ がん抑制遺伝子 ARID1A は多種多様ながんで高頻度に変異していますが、その機能のメカニズムはまだ完全に解明されていません。
⚫ ARID1A の新たなタンパク質間相互作用ネットワークを明らかにし、RNA の代謝、転写、DNA 修復(注1)の因子との相互作用を見出しました。またこれらタンパク質に ARID1A との結合に関与する保存されたアミノ酸配列を発見しました。
⚫ さらに ARID1A が、がんの特徴であるゲノムの不安定性(注2)の抑制に関わる DNA 二重鎖切断修復(注3)に寄与する新規のメカニズムを見出しました。
【概要】
ARID1A は多種多様ながんで高頻度に変異していますが、その機能とがん化抑制機能のメカニズムはまだ完全に解明されていません。
東北大学加齢医学研究所分子腫瘍学研究分野の 菅野新一郎講師、小林孝安准教授、田中耕三教授、安井明学術研究員、宇井彩子准教授らは、クロマチン(注4)の構造変化を促すクロマチンリモデリング(注5)複合体における ARID1A の新たなタンパク質間相互作用のネットワークを明らかにし、それらのタンパク質の中に ARID1A との結合に関与する保存されたアミノ酸配列を見出しました。これら ARID1A の相互作用因子の中で、DNA 二重鎖切断の修復に関わる因子との相互作用を新たに発見し、その機能的な意義を明らかにしました。DNA 二重鎖切断は致死的な DNA 損傷であり、その修復異常はゲノム不安定性を引き起こし、細胞のがん化に関わると考えられています。
今回の発見から、ARID1A が有するゲノム安定性(注6)維持機構における新たな機能とそのメカニズムが明らかになりました。
本研究成果は、2025 年 3 月 13 日に学術誌 Nucleic Acids Research 誌で発表されました。
図1. 本研究のイメージ図。
【用語説明】
注1.DNA 修復とは、細胞が DNA の損傷を修復する仕組みです。DNAの損傷は、紫外線や化学物質、活性酸素や放射線などによって引き起こされます。
注2.ゲノム不安定性とは、DNA(ゲノム)の修復機能に異常が生じ、変異が起こりやすい状態を指し、がんの特徴の一つです。
注3.DNA 二本鎖切断の修復(DNA double strand break; DSB)とは、 DNA 損傷の中でも特に致死的な DNA の二重鎖が切断された損傷を修復する仕組みです。放射線や活性酸素、がん化学療法剤などによって引き起こされるます。この修復が異常になると細胞死や細胞のがん化を引き起こします。
注4.クロマチンとは、真核生物の細胞の核内に存在する DNA とタンパク質からなる構造体で、染色質とも呼ばれています。遺伝子の発現を調節するなど、生命の活動に重要な役割を果たしています。
注5.クロマチンリモデリングとは、クロマチン(真核生物の細胞核内に存在する DNA とタンパク質の複合体)の構造を動的に調節することで、遺伝子発現(転写)や DNA 修復や DNA 複製を制御する仕組みです
注6.ゲノム安定性とは、ゲノムの変異や異常が起きない状態を指します。
【問い合せ先】
<研究に関すること>
東北大学 加齢医学研究所
准教授 宇井彩子
TEL:022-717-8469
Email:ayako.ui.c7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
<報道に関すること>
東北大学加齢医学研究所
広報情報室
TEL:022-717-8443
Email:ida-pr-office*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)