日時: | 令和元年5月13日(月)午後5時00分〜6時30分 |
場所: | 加齢研実験研究棟7階 大会議室 |
演題: | 骨格筋の恒常性維持機構の分子メカニズムを探る |
講師: | 奥津 光晴 |
所属: | 名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科 |
担当: | 本橋 ほづみ(所属 遺伝子発現制御分野・内線8550) |
要旨: | 癌や心不全などの慢性疾患や加齢は骨格筋の萎縮を引き起こす。癌患者における筋萎縮は生存率に影響することや加齢性筋萎縮はフレイルやロコモティブ症候群を発症することから、筋量を維持する分子メカニズムを解明することは健康寿命の延伸や医療費削減の観点からも重要な課題である。 慢性疾患や加齢による筋萎縮は酸化ストレスの増大が一因である。抗酸化物質は細胞内外の酸化ストレスを軽減することから、骨格筋の抗酸化物質を増加することで骨格筋量の維持が期待できる。これまで我々は、抗酸化物質の増加による酸化ストレスの軽減に焦点を絞り、筋量を維持する分子メカニズムの解明とその新たな予防方法の確立について検討を行ってきた。その結果、デキサメサゾン投与や心臓疾患モデルマウスで見られる筋萎縮は、骨格筋の分泌型抗酸化酵素(Extracellular Superoxide Dismutase: EcSOD)を増強することで抑制できることを筋特異的EcSODトランスジェニックマウスの作成から明らかにした(Okutsu M, et al. Circulation Heart Fail, 2014)。 骨格筋の抗酸化機能の改善はこれまでに様々な方法が報告されているが、定期的な運動などの筋収縮刺激はその代表的な方法である。運動による抗酸化物質の増加は、継続的な持久的運動による抗酸化物質を多く産生する遅筋特性の獲得が要因と考えられてきた。我々は、近年の抗酸化物質の産生機序に関する研究から、他の細胞同様、骨格筋においてもNrf2の核内移行が重要な役割を果たすと仮説を立て、運動などの筋収縮刺激によるNrf2の核内移行とこれに関わるタンパクの変動を検討した。その結果、運動などの筋収縮刺激はp62のリン酸化を誘導し、Keap1に選択的に結合することでNrf2の核内移行を促進する可能性を筋特異的にp62およびNrf2をノックアウトしたマウスを用いて立証した(Yamada M, et al. The FASEB Journal, 2019)。 骨格筋の恒常性を維持する分子メカニズムは未だ不明な点が多い。本セミナーでは、この疑問を解決する糸口となる研究成果について紹介する。 |